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高校数学

高校数学 2022 共通テスト 数学IA 総評

 2022年 1月16日実施の共通テスト 数学IAについて、第1問から第5問まで、それぞれ見て来ました。

基礎力がしっかりあると思われる受験生の、とりたい得点と目標となる所要時間 は次のようなものでした。

選択問題を 第3問・第4問を選んだ人の合計点と得点
 81点から89点
  (89点は上位校を狙う人)
 54分から61分

選択問題を 第3問・第5問を選んだ人の合計点と得点
 86点から94点
  (94点は上位校を狙う人)
 61分から65分

選択問題を 第4問・第5問を選んだ人の合計点と得点
 83点から89点
  (89点は上位校を狙う人)
 58分から64分

 最初に指摘した点は次のようなものでした。
これまでのセンター試験等に比べると、問題の作りが雑のように思えました。(コロナ禍により、作成者たちの会議や意志疎通が少なくなった等でしょうか。) また、表面的には思考力重視に見えたかもしれませんが、しっかりと数学の基礎力がある人は十分に解ける問題であると思います。

 残念な点は以下のような点です。
・思考をさせるという点では数学によって明確化される思考力を問う問題よりも、通常の思考力を問うような問題がちらほら見られたこと。

・問題の作りがやや雑というのは、数学的思考力を問う際に、得点される1つの個所で、ある簡単なものを問い、同種の力を問う問題が続いたかと思うと、同じ単元で問うべき他の複数の力を一度に使わなければならない問題もあり、もう少しばらけさせねば十分に問えないだろうという点。

・別の力を問えばよいものを同じ力を単に取り扱う要素の数を多くするという形を用いている点。

 これらの雑さ、思考力としてはもっと数学を使う利点のあるものであるべきあろうという点、計算力の有無で差が開くべきではないのではないだろうかという点(今回のそれは高校数学の力の判定というより、小学生の計算力判定のような種類のものでしたから)、これらはありますが、全体としてはセンター試験よりもしっかりとしたものになっているという印象はあります。

 思考力に関しては「地頭が必要」とか「センスが必要」というような思考力ではなく、数学の基礎を適用することで解決するという意味での思考力の問われ方の方が多いと感じました。決して悪問ではないと思います。

 今回必要とされた思考力の多くは、種々の定理や手法の基礎となっている事柄の理解です。
 そのため「例題を学んで、同じように解く練習をする」とか「問題を繰り返し解いて、解き方のパターンを覚える」といったような勉強をしていた人は苦戦したのでしょう。

 けれども、数学というは元々そのような性質の構造をしていませんから、学び方の問題ともいえます。
 数学の構造というのは「基礎理論」を学び「その基礎理論を個々の具体的な問題に適用する」という構造をとっています。基礎理論というのは、教科書では各テーマのはじめに書かれているものです。半ページくらいであったり、長い場合は2ページくらいです。その後にある例題というのは、基礎理論の適用のしかたの”例”であって、練習問題を解くための例ではないとも言えます。はじめに学んだ基礎理論を個々の問題に使っていく例を示している感じです。この段階で学習者は「どうして、その基礎理論をそのように使おうというアイデアが出てくるのか?」などを学ぶべきですし、分からない場合は教師に説明を求めるべきでしょう。そうして例題の次にある練習問題では「同じように解く」のではなく「適用するプロセスを、どうしてその動機が出てくるのかというアイデアが出てくるところから同じように体験する」という意識学ぶ。このような学び方が数学の構造ではないかと思います。
 このように考えると「例題を学んで、同じように解く練習をする」とか「問題を繰り返し解いて、解き方のパターンを覚える」という勉強は、適用後ばかりに着目した学習になってしまっていると言えるのではないでしょうか。
 今回の共通テストで主に主題となっていたのは、例題や練習問題の解き方ではなく基礎理論の部分でした。各定理などを成り立たせている基礎の部分です。そのため、定理などを証明する習慣のあった人は得点しやすかったかもしれませんし、基礎の適用という目で練習を重ねてきた人にとっては、解けて当たり前というレベルだったとも言えます。
 このような目で見れば、しっかりとした数学の基礎を問うた問題であると思います。おそらくは問題を作成した委員や大学教授は、非常に基本的なことを問う問題と考えられるでしょう。それなのに平均点が低いのは、教える側の教師や練習する側の受験生にこのような意識が欠けていたことや、数学を「決まった問題の解き方を学ぶ学問」という受験数学のみに通用する考え方によるのかもしれません。そして、このような学び方や教え方になってしまっていることが多いというのが、平均点の低さの証なのではないかと思います。共通テストは、このような使えない数学を教えるのを是正しようという試みの変化でしょう。

 大学教授にとって、数学は現象や物事を記述するためのものであり、数学という形式で記述することで複雑に絡み合っていたものや、人間の頭では処理しきれないものがほどけていくものという感じではないかと思います。そして、このように数学を使うとき、数学は使えるものになるのだと思います。このときに「どう記述するか」のルールのようなものが基礎理論であり、具体的に記述していくプロセスが「問題への適用」の部分になります。大学教授たちは場合によっては数学の抽象的なものを対象として、場合によっては社会や自然の現象を対象として基礎理論を適用しています。受験生の場合は、同じ枠組みで対象が限られた範囲で出題された問題であるだけだと考えられのではないでしょうか。このように考えたとき、今回の共通テストはしっかりと基礎的な内容であり、さらに活用力に向けた方向へのシフトと考えられます。そのため、悪問ではないと考えるのです。

 さて、このような学習で学んだ場合、おそらく普通の頭の人が採れるであろう得点というのが、ここで書いた得点です。

第3問・第4問を選択: 81点から89点 54分から61分

第3問・第5問を選択: 86点から94点 61分から65分

第4問・第5問を選択: 83点から89点 58分から64分

前回同様、ここでいう「普通の頭の人」というは、大学受験をする人の中で普通ということです。具体的には、中学生の頃の数学の偏差値が58くらいの人というのを想定しています。

「普通の努力」というのは、例えばつぎのような勉強時間です。
 高校1年から高2の夏まで:毎日45分から1時間くらいの自宅学習
  (数学に割り振る時間は15分から30分くらい。)
 高2の夏から高3の夏まで:毎日1時間半から2時間くらい
  (数学に割り振る時間は30分から45分くらい。)
 高3の夏休み:かなり頑張る唯一の期間で1日に6時間から8時間くらい
  (数学に割り振る時間は1時間半から3時間くらい。)
 高3の2学期以降:毎日3時間から4時間半くらいの学習
  (数学に割り振る時間は1時間から1時間半くらい。)

 このくらいの時間で、視点がズレた学習でなければ、先ほどのような得点はいけるものと考えられます。

(スクラムnext 田中克典)

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